滞在型のスローツーリズムで見えてくる

能登の里山里海に隠れた
宝もの

日本海に突き出た能登半島の北半分にあたる奥能登。起伏に富む大地の多くは原生林に覆われ、荒波が寄せる外浦といつも穏やかな内浦という対照的なふたつの海に面することから、実に多彩な表情を持っています。輪島塗、いしる、キリコ祭り……。類まれな風土は、食に、住まいに、風習に、特異な個性をもたらし、今なお受け継がれています。

トップ能登の里山里海に隠れた宝物滞在記 Slow-3

Slow-3

暮らしのそばの、ありのままの自然

『春蘭の里』には、すぐそこに手付かずの自然が。

年季の入ったオフロード車に乗って現れた多田貴一郎さん。「水源を見に行こか?」

ガッタンゴットン。多田さんは雑草に覆われた悪路をものともせずに進んでいく

人々の暮らしを潤す、自然の水の恵み。

水が美味しいですね、と言ったのがうれしかったのでしょうか、多田喜一郎さんは、多田さんのお宅を含む数軒が生活用水に利用している水源を見に行こうと誘ってくれました。山田川に注ぐ支流を遡っていきます。流れは見る見る細くなり、流れに並走する草に覆われた道は険しさを増していきます。川の名前を聞くと、「名前? 名前はねえな」と多田さん。名前のない小川を、その水を使う多田さんら住民は夏場の草刈りや倒木の処理などを行って、大切に守っています。
辿り着いた水源は、一面が苔に覆われ凛とした空気が漂っています。水は冷たく、美味しい。
「大雨が降ると、うちの風呂は茶色いお湯になるんだよ。この川が濁るから。しばらく洗濯もできなくなるんだ」と多田さんは笑います。豊かな森の大地に磨かれた水は、きっと栄養も豊富なことでしょう。この清冽な水が、美味しい食事に、心地よいお風呂に、毎日の暮らしを潤してくれているのです。

普段人が立ち入ることのない流れの最奥部から、ホースで生活用水を引いている。

清冽な水をひとすくい、飲んでみる。まろやかで、すっと身体に染み入る

能登の暮らしに欠かせない、
山の天然きのこ。

松茸に似たきのこで能登ではよく採れるサマツ。松茸ほど香りは強くないが、
小気味よい食感が持ち味。

能登はきのこの名産地。適度な湿度と風が抜ける気候がきのこの生育に適しており、広葉樹と赤松が混成する森には、さまざまな天然きのこが顔を出します。伝統的には、農家は燃料となる薪や炭、建築用の木材を産出する自前の山を管理し、その山では春に山菜、秋にきのこを採って食材として生かします。多田さんは自分の山を案内してくれました。
「シバタケ、コノミタケ、サクラシメジ、イッポンシメジ、ゴッサカブリ、ジコウ、ズベタケ……」。山で採れるきのこを挙げてくれます。「そこにあるよ」と教えてくれたのは、松茸に似たサマツ。夕飯では炒め物で美味しくいただきました。
「何本かまとまって出てくるんだよ。これを全部採ってしまわないで、必ず少し残しておくんだ。そして、きのこのために森を整備してあげると、きのこはまた出てきてくれる。きのこと人間が共生しているようなもんさ」

塩蔵されたシバタケ。お祭りなどの伝統行事では、どのきのこをどんな料理で食べるかが決まっていることも。その日のために、きのこは塩漬けにして大切に保存する。

多⽥さんが管理する通称「きのこ⼭」へ。「ほら、あそこにも」と多⽥さんは遠くからでも⼩さなきのこを⾒つけて教えてくれる

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