滞在型のスローツーリズムで見えてくる

受け継がれる丁寧な暮らし

七尾湾に浮かぶ能登島は、周囲約70km、7割ほどが山林に覆われた島。縄文時代から人が定住し、漁を中心とした生活が営まれてきました。1982年に能登島大橋が、1999年にツインブリッジが架かり陸路の移動も便利になりましたが、それまでは他の地域との物流は多くはなく、島内ですべてを賄う必要がありました。そのため、海と山の恵みを大切に採り入れた自給的な生活が代々受け継がれてきたのです。今なお、ゆったりとしながらも、丁寧な暮らし方が営まれる能登島では、現代人に必要な本当の豊かさがかいま見えるかもしれません。

トップ受け継がれる丁寧な暮らし滞在記 Slow-1

Slow-1

海に浮かぶ、実りの大地。

能登半島の東側の七尾湾を塞ぐようなかたちで浮かぶ能登島。

伊夜比咩神社の境内には柿の巨木が。天高くまでたくさんの実をつけていた。

互いに作物を育て
助け合う暮らし。

能登島では、陽当たりのよい平地には決まって田畑が広がる。
多くの民家には大きな菜園が隣接し、一年を通じて野菜が育てられている。

能登島に入ると、不思議と穏やかな心持ちになります。湖のように凪いだ海、伝統的な黒瓦の家々の街並みが、「そんなに慌てんでも」と語りかけてくれるような気がするのです。島の中心部である向田地区をのんびり散歩してみます。
「能登島は海と里山が近いのが特徴です。豊かな漁場が広がる海からは一年を通じてさまざまな魚介を、肥沃な土と湧水に恵まれた大地からは豊かな農作物を得て、この不便な場所でも自給的な暮らしが営まれてきました」と話すのは、一般社団法人のと島クラシカタ研究所の代表理事・福嶋葉子さん。金沢から移住し、地域づくりに取り組みながら、自ら民宿も運営しています。
肩を寄せ合って家が建つような集落にも、至るところに菜園があり、果樹が植えられています。みかん栽培の北限、そしてリンゴ栽培の南限に近いと言われる能登島は、多種多様な作物が育つ土地。誰もが食べ物を自ら生み出し、住民同士で交換しながら助け合う。そんな昔ながらの暮らしの知恵が、今なお息づいているのです。

年季の入った住宅が立ち並ぶ向田の集落。クルマの通りはほとんどない。

集落の用水路に、清冽な湧水が滔々と流れていた。
ちょっとひとすくい……あ、冷たい。お、美味しい。

稲刈り後の秋の日、陽当たりのよい田んぼには草が生い茂り、しばし早春のような風景に。

畑の端には栗や柑橘など実ものの木がきれいに植えられている。防風対策と共に貴重な食料を得る暮らしの知恵。

伊夜比咩神社は創建の年は不明ながら、905年の書物にはすでにその名前が登場しているという歴史ある神社。神事と仏事をとりわけ大切にする島民にとって、神社とお寺は心の拠り所。

無人販売所では、烏骨鶏やアローカナの卵が売られていた。しかも格安。今日帰宅するなら迷わず買いたいところだけど。

新たな価値を提案する
これからの農業。

2000年頃に自然に配慮した野菜の栽培を始めた「NOTO高農園」の高利充さん。金沢出身で、
当時福岡勤務だった建設会社を脱サラして能登島で就農。手探りで独自の営農の道を切り拓いてきた。

海を遠望できる畑。適度な海風が吹き、標高は約120mあるため昼夜の寒暖差も大きい。野菜栽培に絶好の気候。畑周辺に自生するヨモギやコシアブラ、コゴミなどの山野草、木の葉なども出荷し好評を得ている。

輪島のフランス料理店「ラトリエ・ドゥ・ノト」でいただいたサラダの力強い味が、なんと印象的だったことか。その野菜をつくるのは能登島に広がる「NOTO高農園」。代表の高利充さんは、園内を案内してくれました。20haの畑で年間を通じてつくられる作物はなんと約300種。しかも有機栽培、害虫対策も木酢液や防虫シートなどを使用し、安全性に配慮した栽培を行っています。高さんの農法は明快。栽培したい作物をアブラナ科、ナス科、マメ科などに大きくグループ分けし、グループを輪作(同じ耕地で違う作物を一定順序で栽培すること)します。加えて、畑の3分の1には麦などの緑肥を植えてすき込み、休ませています。動物性の堆肥は使わず、成分を調べて不足している栄養分を植物性の有機肥料で補ってあげるそうです。収穫方法も特徴的です。たとえばちりめんキャベツなら、花、若葉もそれぞれの時期に摘み、まとまった量を出荷します。そんな工夫が、「ちりめんキャベツの花のサラダ」といった魅惑的なメニューを生み出しているのです。現在、直接取引するレストランは全国120軒以上。名うてのシェフたちがこぞって使いたがる、逸品野菜となっているのです。

ニンジンもすくすくと生育中。もちろんこの葉っぱもごちそうだ。

農園の野菜はみんな元気いっぱいで、見るからに美味しそう。

日光をそれほど必要としない作物の畝と畝の間もゆったり。収量よりも、スタッフが作物を積むソリを移動させやすく、作業しやすい環境を優先しているのだとか。

抜きたてのラディッシュをほおばる。バリッとパワフル、みずみずしい。

物語を紡ぐ人~スロツーびと~

土だって同じ作物ばかりじゃ飽きちゃう。いろんな作物を育てて、たまには休ませてあげたい」

NOTO高農園代表:高利充さん

滞在記スポットPick Up