滞在型のスローツーリズムで見えてくる
本当の豊かさにふれる場所
能登半島の突端に位置する珠洲市。その北側にあたる大谷地区は、変化に富んだ海岸線が続く風光明媚なところ。海から昇る朝日と海に沈む夕日を眺めることができる、めずらしい場所でもあります。ここでは、地元民と県外の人の交流が盛んに行われるようになっています。
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さいはての地の 暮らしを ありのままに 体感する
能登外浦の営みを継承し次世代に伝える。
珠洲市大谷地区にある古民家に寝泊まりしながら、地元の人たちと一緒に野菜を収穫し、魚を獲り、調理して味わう。そんな暮らすように旅する体験イベントが催されています。プロジェクトをリードするのは重政辰也さんが率いる「Hanomi」というチーム。Hanomiという名は漢字では“波の珠”と書き、活動が珠洲から波のように世界に広がっていってほしいという願いが込められています。そして、“珠”は宝物である子どもたちを意味します。子どもたちのために、能登外浦の営みを継承し、次世代に伝えていくことをミッションにしています。
重政さんは活動を始めた動機について話します。
「私はこの大谷で生まれ育ち、現在は仕事の関係で家族と金沢と大谷の2拠点で生活しています。大谷は少子高齢化が進み、保育所がついになくなってしまいました。30年以上続いて盛り上がりを見せていた大谷川鯉のぼりフェスティバルも、事務局スタッフの高齢化によって継続が難しくなっています。これまでの営みを継承していくにはどうすればいいか? 人々を大谷に呼び込み、まずは大谷のありのままを知ってほしいと思ったのです」
地元でのなんでもない日常が
忘れられない旅の思い出に。
「Hanomi」は2020年からさまざまなイベントを実施してきました。子どもたちの交流を目的にして行ったヴァーチャルな街づくりのプログラミング体験。毎年秋に行われるキリコ祭りの演奏披露。地元民があらためて地域を見つめる機会をつくるための創作演劇のワークショップは、人気演出家の指導のもとに行いました。
中でも地元の農林漁業者や飲食店と連携して行う「旬を楽しむ会」は、遠方から家族ぐるみで参加する人も多い恒例イベントになっています。同会のコンセプトは、食を通じて大谷の暮らしを体感してもらうこと。たとえば、春は、地元で採れた海藻をしゃぶしゃぶで味わう。夏は、海水由来の塩水であるかん水を自分で煮詰めて塩を作り、その塩で夏野菜の天ぷらを味わう。秋は、獲れたてのタコを自分で活け〆にして食べる……と、ここだけの体験が満載。
「大谷に育った私たちにすれば、なんでもない日常のあれこれが、ものすごく魅力的な旅のコンテンツになることに気付かされました」と重政さんは話します。確かに、体験したくてもチャレンジする機会がない体験ばかり。回を重ねるごとに盛り上がりを見せているそうです。