滞在型のスローツーリズムで見えてくる

里山の営みにとけこみ旅する

能登半島のちょうど真ん中あたり。志賀町熊野地区には、田園と山林が織りなす日本の原風景が広がります。近頃は“のとくまの”という愛称で呼ばれている地域です。かつては薬草の名産地として知られ、地域ぐるみで薬草づくりに取り組み、栄えました。今なお自然と調和しながら営まれる里山の暮らしにとけこんで、ゆったりと過ごすことができます。

トップ里山の営みにとけこみ旅する滞在記 Slow-2

Slow-2

みんなでぼたもち、ワイワイと

町居地区のお母さんたちと一緒に手作りしたぼたもち。中に餡をくるんだ逸品。

昔ながらの
特別な日のごちそう。

きなことあんこ2種類のぼたもちをみんなで手作り。

今日は、集落のお仲間とぼたもち作り。その前に、神社へお参りします。地域の鎮守、松尾神社は1200年も前にまつられたと伝わります。茅葺き屋根の本殿はなんと室町時代末期建立の国指定重要文化財。もう500年近くも地域の人々に大切に守られてきました。
ハルシャギクにヤマモモソウ、ワスレグサ、道端や各家の庭先に咲く花を愛でながら向かったのは、町居に嫁いで50年以上になるという幸子さんのお宅。東京と金沢から、そしてフランスとロシアからのゲストと一緒に、納屋でぼたもちを作ります。
春に食べるのが牡丹の花に見立てたぼたもち、秋に食べるのが萩の花に見立てたおはぎ。春と秋のお彼岸にお供物として作られ、お下がりをいただくのが慣わしです。作るのにとても手間がかかり、かつては砂糖が貴重だったことから、特別な日だけのごちそうでした。

室町時代末期に建てられた本殿が健在の松尾神社。

鮮やかな黄色が印象的なハルシャギク。

可憐なヤマモモソウの花も目を楽しませてくれる。

「幸子さん、よろしくお願いします」「お人形さんみたいにきれいだねえ」。

もち米のごはんにヨモギを混ぜ込むのが幸子さん流。

餡玉をごはんでくるむ。「あら、上手だねえ」。

「フランスにもお米を使った料理はあるかい?」
「お米は野菜と同じで、茹でてサラダなんかにしますね」。

みんなで作る
ぼたもちは
格別の味わい。

形は思い思いに。立派なぼたもちが出来上がった。

幸子さんのぼたもちは、湯がいて刻んだヨモギの葉を混ぜ込むのが特徴です。苦味がアクセントになって味わい深くなり、胃もたれもしないのだそう。
幸子さんと仲良しの富美子さん、八重子さんにも教わりながら、炊き上がったもち米をこね、中に餡を入れて丸めていきます。最後に小豆のつぶ餡かきなこをたっぷりからめたら出来上がり。笹の葉でくるむのもおしゃれです。
「これからはどんな野菜が獲れるんですか?」「お漬物はどんな感じ?」
「若い頃は、里海の人たちが魚を担いで来たよ。里山の私らは野菜や栗なんかと物々交換して、普段は食べられない魚をありがたくいただいたもんよ」
みんなで手作業をしていると、いろんな質問が自然と生まれ、会話が弾みます。
お母さん方の手際のよさと、出来上がったぼたもちの美しさは見事のひと言。さあ、実食……あれ? ぼたもちってこんなにおいしいものだった!? 海外からのふたりも箸が止まりません。自家製のもち米の素材のよさとお母さん方の技術、そしてみんなでわいわい楽しく作ったという調味料が、何よりのおいしさの秘訣になっているようです。

「もう1個おかわりしていいですか」「いくらでも、あるだけ食べてって」。

甘いぼたもちの箸休めに、炊いたフキ。ほのかな苦味がたまらない。

物語を紡ぐ人~スロツーびと~

「なんもないとこよ」「なんもないから暮らしに知恵が必要なの。知恵を使って、工夫して暮らすからおもしろいのよ」「そうそう」

八重子さん・富美子さん・幸子さん