滞在型のスローツーリズムで見えてくる
森と水の潤いにあふれた
古民家ステイ
白山ろくを流れる瀬波川沿いに、瀬波という小さな集落があります。耕作地があまりない山あいの地で、深い森が間近に迫っています。かつては盛んに行われていた林業と炭焼きは50年ほど前に途絶え、集落は過疎化が進んでいます。瀬波の大自然に囲まれた古民家を改修しながらカフェと宿を営む夫妻を訪ねました。
Slow-1
山あいの小集落の営みを受け継ぐ
古民家の素朴な雰囲気が生かされた和洋折衷のカフェスペース。
お寺の仕事のかたわらカフェとゲストハウスを運営する波佐谷さん夫妻。共に自然の中での生活が気に入っているそう。
カフェの前から大笠山方面を見上げる。一面深い森に覆われている。
深い峡谷に
たたずむカフェ。
かつては焼いた炭を扱う作業場だった2階。今はカフェの客席やイベントスペースとして活用されている。
手取川の支流、瀬波川沿いの道路を大笠山の方向へ登っていくと、山々の緑がどんどん濃くなっていきます。峡谷の中の少し開けた平地に建物が点在する集落が瀬波地区。「瀬波カフェ&ゲストハウス」はその集落の端っこにあります。
三角屋根に白板壁がかわいらしい建物に入ると、太い梁や柱ががっしりと組まれた迫力ある空間に圧倒されます。ここは長く空き家になっていた築約90年の古民家をリノベーションして2022年にオープンしました。切り盛りするのは、波佐谷信道さん・阿弥子さん夫妻。瀬波地区の隣、鳥越出身の信道さんは、東京での大学生活のあと、家業のお寺を継ぐために京都で修行をしました。大分出身でやはり京都で修行をしていた阿弥子さんと結婚。子どもが生まれたのを機に鳥越に戻ってきました。そして、この古民家の存在を知ります。
「持ち主が自分の山のケヤキを惜しみなく使って建てたから、柱も梁も長押もこんなに立派なんです」と信道さん。
木の恵みに包まれて。

落ち着いた風合いになった梁や桁。釘を使わずに組み上げる昔ながらの工法に目を見張る。
西洋のアンティーク家具が古民家に調和し、魅力的なインテリアに。
瀬波地区では戦前まで炭焼きが盛んに行われていました。下手にある鳥越は広大な田んぼが広がる稲作地帯。上手にある白峰では養蚕が主産業となっていました。平地がなく耕作地がつくれない瀬波では、古来、どの家も林業と炭焼きに取り組んでいたといいます。「瀬波カフェ&ゲストハウス」の建物も、そんなおうちの一軒。2階の大きな空間は、炭を束ねて保管するスペースだったそうです。
「今では考えられないほど立派な木材をふんだん使って建てられました。構造体はすべて硬くて重いケヤキの材です。このような家は、雨の吹き込みを防げば、200年、300年と保つそうです」と信道さんは話します。かつてこの地域では、孫が家を建てるための木を植えるというサイクルが受け継がれ、誰かが家を新築する際には集落のみんなが木の伐り出しや建築作業を手伝ったそうです。その伝統は、戦後の林業の衰退とともに失われてしまいました。波佐谷さん夫妻は、瀬波の文化を色濃く残すこの古民家をカフェ&ゲストハウスという形で守っていこうと決意しました。
「私たち、西洋のアンティークや日本の古い民具が好きで、自分たちで直しながらお店をつくってきたら、自然と和洋の好きなものがミックスした空間になってきたんです」と阿弥子さん。静かに時を刻んできた古民家と調度品が、訪れる人をやさしく包み込んでくれます。
室内にさりげなく置かれた小物の一つひとつに波佐谷夫妻の思いが詰まっている。
暖房は薪ストーブ。近隣の森の間伐材をもらい受け、薪に利用している。