一尾一尾、じっくり丁寧に
焼きあごだしの極上の風味

商品名:能登の焼きあごだし
メーカー:NPO法人能登すずなり(道の駅すずなり)

血合いと背骨をきれいに取り除いて香ばしく焼き上げられた「焼きあご」。丁寧な仕事が光る。

伝統の食文化を未来に残すために

“あご”とはトビウオのこと。珠洲市の家庭では、トビウオを炭火焼きしたあごから取っただし「焼きあごだし」が、伝統的に使われています。トビウオは飛ぶための筋肉が発達していることからタンパク質が豊富な一方、魚臭さのもとになる脂肪分は少なく、上品なだしを取るのにうってつけの魚です。かつて珠洲市では各家庭で、市内で獲れたトビウオを求め、囲炉裏で焼きあごを自家製造していました。しかし、漁業から離れる家が増え漁獲量も減り、囲炉裏も使わなくなると、焼きあごを家庭で作る習慣はなくなってしまいました。
三崎町小泊地区の長手崎すいせん工房は、その焼きあごの伝統の火を消してはならないと、2004年に地元の有志で立ち上げられた焼きあご製造所です。現在、10名ほどの女性が在籍し、その平均年齢は80歳オーバー。お歳を感じさせないパワフルさで、元気に焼きあごを作り上げています。

長手崎すいせん工房は、海辺に建つ建物で毎年6月〜7月中旬に作業を行う。

工房立ち上げから参加している徳間由美子さんと仲間の皆さん。
(徳間さんは右から3人目)
期間中は、早朝から昼頃までトビウオの処理作業におおわらわとなるが、
いつもワイワイと和やか。

手間ひまを惜しまぬ作業が
美味しさのヒミツ

焼きあご作りは毎年6月初めから7月中旬頃まで。脂がまだ乗らない、産卵のために沿岸にやってきた小ぶりなトビウオが獲れるわずかな期間に集中的に作ります。何より鮮度が命。すぐそばの港から毎朝100kgのトビウオを仕入れ、メンバー総出で処理を行います。
トビウオは皮が薄く、身の細さの割に骨が太い魚。便利なウロコ取り器だと皮が破れてしまうので、包丁の背を使って丁寧にウロコを取っていかなければいけません。内臓を取り、卵が入っていれば、食材としてキープします。大変なのは血合いを取る作業。背骨のそばにある血合いをきれいに取るのは一苦労ですが、珠洲の焼きあごには、この作業が欠かせません。徳間由美子さんは珠洲の焼きあごの特徴を説明します。
「あごだしの産地は全国にいくつかありますが、地方によっては内臓も取らずに丸ごと使うところもありますし、焼き干しではなく煮干しにするところも多いんです。ボイルするよりも焼いた方が旨味を閉じ込めることができますし、血合いまでしっかり取ることで、雑味のない上品なだしが取れます」

焼きあごだしの美味しさを堪能できる料理の代表、そうめん。だしを取ったあとの焼きあごは煮付けて惣菜にしたり、ふりかけなどにしても美味。

砂糖やみりんを加えなくても、醤油で味を調整するだけで抜群に美味しいから驚く。

だしの味を堪能できる、
ここぞという料理に

下処理を終えたトビウオは串に刺して丁寧に焼き上げます。珠洲名産の珪藻土のコンロを使い炭火でじっくり焼くことで、遠赤外線によって身がふっくらと仕上がります。さらに、乾燥機で24時間乾燥させて、ようやく完成。極上のだしが取れるとあって、料理人から引く手あまたの逸品となっています。
イワシの煮干しや鰹節などに比べると、焼きあごはちょっと贅沢なモノ。地元の人も、焼きあごだしはハレの日の煮物やお椀のほか、だしの味を堪能できる茶碗蒸しやそうめんなどの料理に使うことが多いと言います。
徳間さんにそうめんを作っていただきました。水出しで一昼夜かけて取った焼きあごだしを冷凍保存して、必要な時に使うのが徳間さん流。そうめんのつゆは、そのだしにお醤油だけを加えたごくシンプルなものです。そうめんをつゆにつけてひとすすり……上品な旨味が口いっぱいに広がり、心地よい香りが鼻に抜けます。なるほど、手間ひまかけて作られた珠洲の焼きあごならでは美味しさが、そこにはありました。

能登の焼きあごは、いくつかの生産者が作っている。トビウオのサイズや焼き加減などに微妙な違いがあるので、好みの一品を探してみよう。