日本で唯一残る揚げ浜製塩法で作る
揚げ浜塩のまろやかな味わい

商品名:奥能登揚げ浜塩
メーカー:株式会社奥能登塩田村(道の駅すず塩田村)

人気の「浜士の塩」。ほかに、いしるを使った「いしる塩」や能登ワインを使った「能登のワイン塩」などもある。

海水と自然の力を使って作る
昔ながらの製塩法

奥能登、珠洲市の外浦(日本海側沿岸)では、日本で唯一、揚げ浜式製塩法で天然塩作りが行われています。揚げ浜式製塩とは、500年以上の歴史を持ち、国の重要無形文化財にも指定されている伝統的な製塩技術。汲み上げた海水を塩田に撒き、太陽熱と風の力で水分を蒸発させ、砂に塩分を吸着させます。その砂を集めて、さらに海水を注いで、塩分濃度の高い水を作り、それを釜で水分がなくなるまで炊くことで、塩を作り上げます。
奥能登塩田村は石川県の「ふるさとの匠・伝統の匠」に認定されている浜士(はまじ)・登谷良一さんが塩作りを指揮する塩田。浜士とは製塩の事業を統括する責任者のことで、酒造りにおける杜氏にあたります。登谷さんは昔ながらの道具を使い、仁江海岸の海水と里山から伐り出した薪を用いて製塩しています。

海水を溜めた引桶に入り、打桶を使って潮撒きをする浜士の登谷良一さん。“潮汲み3年、潮撒き10年”と言われるほど、潮撒きには熟練の技術を要する。

海水を汲み上げる「かえ桶」。一度に担ぐ重さは60kgを超えるという。

茅葺き屋根の小屋で、かん水を炊く。かん水の状態やその日の気候によって、火加減も微調整する必要がある。夏場は60℃を超える釜炊き小屋での作業は過酷だ。

潮汲みも潮撒きも
すべて手作業

奥能登塩田村・統括部長の神谷健司さん。
塩のおすすめの使い方は、焼いた豚バラ肉にちょっとつけて食べると絶品とのこと。

奥能登塩田村の塩作りは、4月中旬から10月下旬にかけて行われます。太陽熱と温かく乾燥した南風の自然の力を利用して海水を蒸発させるため、この時期に限られるのです。一度に撒く海水は平均650Lほど。約36L入る「かえ桶」をにない棒で2つ担いで海岸から塩田まで運び、大きな「引桶(しこけ)」に溜めます。この「潮汲み」を10回ほど繰り返し、引桶に海水が溜まったら、砲弾型の手桶「打桶(おちょけ)」で潮撒きをします。約50坪の塩田1枚に潮撒きするには、登谷さんで所要40分ほど。ホースで撒いた方が早そうに思えるかもしれませんが、登谷さんのように技を極めると、打桶を使った手作業の方が、均一に、しかもスピーディに撒けるそうで、一見すると古風な道具や手法もとても合理的であることがわかります。

炊き上げるための燃料も
里山での地産地消

自然の力によって濃度を高めた海水をさらに煮詰めるには大量のエネルギーを要します。奥能登塩田村のこだわりは、釜を炊く燃料に里山から伐り出した薪を使うこと。里山の森を健全に保つには間伐が不可欠ですが、現代の生活では間伐材が薪として消費されることが少なくなり、山に人の手が入りづらくなっています。奥能登塩田村では、釜を1回炊くのに4トン必要と言われる松、杉、芝を里山から伐り出して活用することで森を保全し、里山の持続可能性に貢献しています。薪を使うことはコスト面でかなりの負担になるものの、統括部長の神谷健司さんは、譲れないこだわりだと話します。
「かつてこの地には106軒の塩生産者がいましたが、昭和30年代に国による塩の買取価格が暴落すると、1軒を残して一斉に廃業してしまいました。同時に、製塩が薪を使うことで山の新陳代謝を促すサイクルも崩れ、里山は荒廃してしまったのです。塩は空気中の不純物を吸着しやすい性質を持っているので、有害物質を出す可能性がある廃材を燃料に使いたくはありません。人間の健康と里山の健康のためにも、薪での製塩を続けていきたいです」

塩田での作業ができない冬から春の期間は、大量に必要となる薪作りに専念する。

釜炊き小屋では大きなかまどに薪が次々とくべられる。焚きつけには芝、火力を出す時には松、安定した火力には杉という具合に樹種を使い分ける。

塩がソフトボール大に固まってきた。かん水をこの状態に煮詰めるまで20時間以上も炊き続けられている。

ミネラル豊富な塩はやさしくまろやか

でき上がったばかりの塩を味見させていただきました。塩味が口の中に穏やかに広がり、奥底に甘味も感じるようなまろやかな印象。旨味とコクも豊かです。もともと海水に含まれる豊富なミネラルが濃縮されているからだと登谷さんは言います。
「能登半島の外浦は暖流と寒流がちょうどぶつかる位置だとされ、植物プランクトンが豊富な海水に恵まれています。特にこの仁江海岸は潮の流れが速く、里山にしみ込んだ雨水も海へ穏やかに流れ込むことから、ミネラル豊富で澄んだ海水が採れる優れたポイントとなっています。この旨味いっぱいの塩を美味しさ味わうなら、やっぱり塩むすびだね。米の甘味を引き立ててくれて、そりゃあ、最高ですよ」

打桶を素早く回すことで、海水を遠くまで広範囲に撒く。経験豊富な弟子でも、登谷さんの潮撒きの域まで達している人はいないという。

海水を汲み出す仁江海岸。一見同じようでも、この海岸で育つ海藻は味がひときわ良く、
栄養豊富でクリアな海水が得られる特別な場所であることが、いにしえより伝えられてきた。