滞在型のスローツーリズムで見えてくる
受け継がれる丁寧な暮らし
七尾湾に浮かぶ能登島は、周囲約70km、7割ほどが山林に覆われた島。縄文時代から人が定住し、漁を中心とした生活が営まれてきました。1982年に能登島大橋が、1999年にツインブリッジが架かり陸路の移動も便利になりましたが、それまでは他の地域との物流は多くはなく、島内ですべてを賄う必要がありました。そのため、海と山の恵みを大切に採り入れた自給的な生活が代々受け継がれてきたのです。今なお、ゆったりとしながらも、丁寧な暮らし方が営まれる能登島では、現代人に必要な本当の豊かさがかいま見えるかもしれません。
Slow-3
海と共にある日々の暮らし。
その日の食材は
目の前の海から。
能登島での宿泊は、島の北端、祖母ケ浦地区にある「民宿 石坂荘」へ。食事が評判と聞いてやってきました。ご主人と女将さん、息子さん夫婦の4人で切り盛りするこちらでは、自分たちで米や野菜を育て、魚を獲って暮らす能登島の伝統的な「半農半漁」の生活を守り、民宿のお客さんにはおもてなしをしています。
石坂さん一家は、小型の漁船で漁へ出ます。息子さんの淳さんが網を引き上げながら、魚が付いている部分を女将さんのところへ投げます。女将さんは網から魚を手早く外し、種類ごとに生け簀やバケツの中へ。ご主人は、船の速度や向きをあうんの呼吸で微調整しています。「今日は少ないねえ」と女将さんは言いますが、小鯛やカワハギ、アオリイカが次々と揚がりました。この美しい海で育った魚たちは、きっと美味しいに違いありません。
その夜、お待ちかねのごちそうは想像をはるかに超えた内容。お刺身、焼き物、煮付け、フライ、酢の物などでいただく海の幸。ツヤツヤのごはんと魚介たっぷりのあら汁……。なるほど、わざわざ来て、ホントによかった。
物語を紡ぐ人~スロツーびと~
活気づく夜明け前の漁港。
こんなに早起きしたのはいつ以来でしょう。晩秋、早朝の能登島は凛とした空気に包まれていました。街灯のない真っ暗な道を進むと、船と建物の煌々とした明かりが見えてきました。能登島で最も大きな漁獲があるという鰀目漁港です。近海の定置網にかかった魚の陸揚げと仕分け作業もはや佳境です。カマス、カンパチ、シイラ、フクラギ、マダイ、グレ、イシダイ、カワハギ、サバフグ、アオリイカ……多種多様な魚が獲れています。どれも味は抜群のものばかり。能登島の海の恵み。その豊かさを目の当たりにした気分です。