いしかわを選んだ料理人たち

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Villa della Pace オーナーシェフ
平田明珠さん

圧倒的な景色を
邪魔しない
料理を求めて、
原点回帰へ。

3月、店の前の原っぱは枯草色に染まり、薄藍に光る海と美しいコントラストを見せていた。店の周りでは、ハマダイコンやハマエンドウ、アケビ、ノビルなどを採取して、料理に使っているという。

全国をめぐり、食材の宝庫・能登へたどり着いた。

2020年秋、七尾市のイタリア料理店『Villa della Pace』が、市街からクルマで20分ほどの海水浴場跡地にオーベルジュとして移転オープンしました。能登の食材を使ったオリジナリティあふれるイタリアンを絶好のロケーションでいただけるとあって、全国から多くのゲストが訪れています。
オーナーシェフの平田明珠さんは、東京出身の移住者。修業した都内の店では、シェフが自家菜園で野菜を育て、ハムも自家製するなど食材調達や手作りにこだわる人だったことに影響を受け、日本の食材を大切してできるだけ自家製のものを使う料理人を目指すようになりました。全国の生産者を訪ねるうちに、能登の里山里海の自然環境や豊かな食文化に惹かれ、七尾での開業を決意しました。
平田さんは能登島の『NOTO高農園』をはじめとする、有機栽培を徹底している生産者の野菜を使うほか、自ら野山に分け入って採取した野草や山菜、木の実などを積極的に使っています。さまざまな調味料を手作りし、能登の発酵文化にならった保存食の技術も採り入れています。「食材の宝庫である能登は、料理をする理想的な場所」だと平田さんは話します。

「景色が主役」と平田さんが言うように、窓の景色以外の要素は極力主張しないように配慮されたシンプルなフロア。

『Villa della Pace』の第2章が始まった。

新たに生まれ変わった『Villa della Pace』は、海辺の原っぱにポツンと建つ空き家をレストラン棟に改装。隣に1日1組限定の宿泊棟を新築しました。レストランの窓からは、湖のように穏やかな七尾湾を一望することができます。移転してから料理が大きく変わったと平田さんは話します。
「前の店では、イタリアンというジャンルにこだわらず、自分の個性を強く打ち出した料理を出していました。今は、いかに自分の個性を消すかに配慮しています。コースの約12品のほとんどはイタリア料理のクラシカルなレシピに基づいたもの。伝統的なイタリア料理に原点回帰し、そこに能登食材をいかに落とし込むか?という発想で料理しています」

とある魚料理は、葉わさびで包んだノドグロと白ポレンタ。ノドグロの出汁に粉末にした能登のアオサで香りづけしたスープと共にいただく。ノドグロの繊細な旨味と上品な磯の香りとの調和が秀逸。

グラスの多くは、能登島で制作する有永浩太さんの作品。ほかにも器には珠洲焼や輪島塗など能登の作家のものを使っている。

野山の天然の植物をところどころにあしらった店内。不思議な温もりがあるミニマルな空間。

店からの散歩におすすめの「唐島神社」。一切の植物の採取が禁じられており、300年間手付かずと言われる原生林が残るパワースポット。平田さんは週に何度か参拝するという。

なぜそこまで料理が大きく変わったのでしょう?
「ここではなんと言っても、この景色が主役。自分の個性が強く出ている料理はそぐわない。……というか、この景色の前では、それまでの自分の料理はなんてちっぽけなんだろうと感じました。それからは、とにかく仕入れにこだわり、クラシカルな料理を丁寧に作るように。景色を邪魔しない美味しさが、本当に求められる美味しさなんだろうと信じて。この素晴らしい環境に、料理のあり方のヒントを一つまた一つと教えてもらっているような気がします」
平田さんの料理は進化を続けています。

「刻々と変化する海の景色。全身の血管が拡張するような唐島神社の神秘的な原生林の空気。ここでは毎日、飽きることがないですね」と平田さん。
「ミシュランガイド北陸2021 特別版」で1ツ星とグリーンスターを獲得。
能登の里山里海の環境を後世につなげるために結成された料理人団体「NOTOFUE」のメンバーとしても活動中。

真ん中に小さく見えるのが『Villa della Pace』。まさに海と山の恵みを享受する立地。